
Inochi labo.+ library No.1
(いのちラボプラス ライブラリー・ナンバー1)
目を閉じて指先で読みたい
『くろは おうさま』
「トマスがいってたよ。」
「あおはそら。たこをあげていると、ひざしであたまがあつくなるときの そら。」
本書に出てくるのは、ある子が体験する色の世界だ。
色の体験が触覚や嗅覚、聴覚や味覚の体験にいきいきと翻訳される世界を追体験するうちに、これは目の見えない子の世界なんだと気づく。
黒い紙面には、繊細な凹凸で美しいかたちが刻まれていて、点字の読めない私も、並んだ点字にそっと触れてみることができる。
でもそれならばなぜ、トマスは空が青いと知っているのだろうか。
雨が降る前に白くなる空。おひさまが顔を出したら、色がみんな出てきて、ときに
虹がかかることも。
トマスのそばに、空の青さを、刻々変わる美しい空の物語を、くわしく話して伝える人がいるからだ。
トマスは空を「見る」ことはないけれども、そばにいるだれかの体験がトマスの体験の世界と分かちがたく結びついている。
「トマスがいってたよ。」
伝聞から始まるこの絵本は、すぐには理解できない不思議な感覚を、感覚を澄ませて、いきいきした体験の贈り物をリレーしていくように読まれるだろう。
黒は抱き寄せられたときの、ママの色。
「きいろは からし。ぴりりと からいけど、ヒヨコの はねみたいに ふわふわ。 」
「あかーっ」
2歳になったわたしの娘も、うれしそうに何かを指さして叫ぶ。
指さす先は、黄色だったり、緑だったり、ときどきちゃんと赤色だったりする。
あかは、彼女にとってどういう色なのだろうか。
ただ全身に喜びをたたえて叫ぶので、ずいぶんきれいな色なのだろうと思う。
色はたったの7色ではない。目に見えない色もある。そしてたぶん、体験と伝聞の世界に生きる私たちの色は無限にあって、生まれたい、出会いたいと思っている。
目を開けて読んだら、静かに目を閉じ、もう一度指先で読みたい一冊。
(土屋パブリッシング編集部・大山景子)
「くろは おうさま」
メネナ・コティン[文]
ロサナ・ファリア[絵]
うのかずみ[訳]
/ サウザンブックス社/本体3500円+税