TSUCHIYA PUBLISHING

いのちにふれる

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日々の宝物を拾って  ―編集日記 Editorial Diary

両手いっぱいの星  大山景子

4歳になった娘を寝かしつける日課が楽しい。

わたし「●●ちゃんは春になったら、りすぐみさん(幼稚園の年少さん)からうさぎぐみさん(年中さん)になるでしょ」

むすめ「そのあとどうなるの?」

わたし「ぱんだぐみさん(年長さん)になるでしょ」

むすめ「そのあとは?」

わたし「小学生になるでしょ」

むすめ「そのあと大人になるの?」

わたし「そのあと中学生のおねえさんになって高校生になって、大学生になって……。

赤ちゃんを産んで●●ちゃんがこんどはママになるかもね。●●ちゃんがママになったら、ママはおばあちゃんになるよ」

むすめ「ママはおばあちゃんになったら次なにになるの?」

わたし「うーん、死んじゃうよ」

しまったと思ったがもう遅い。むすめはみるみるうちにおふとんに大粒の涙をおとし、しくしく泣きだした。

むすめ「おばあちゃんの次はなにになるの?」

反省しながら「鳥さんになるよ!」「花になるよ!」と明るくいってみたが、

うそ人間じゃないじゃん、いっしょにいられないじゃん、と泣き止まない。

むすめ「おばあちゃんになったら死んじゃうの?」

わたし「体がなくなっちゃっても、●●ちゃんのそばにずっといるよ。ほんとだよ」

わたしもかなしくなって、祈りのように語気を強めてみたが、

それから、ことあるごとに、娘の「おばあちゃんにならないで」攻撃がすごい。

両手に頬をはさんで口をよぼよぼしわしわさせながら「おばあちゃんにならないよ~」と力なくいっている。

週末、美星天文台で星の一生のお話をききながら、夜空の星を見た。

水素ガスがあつまって生まれた星の赤ちゃん。集まって光る若い星の群れ――星のりすぐみさん。

そしてひとり輝いた星は、いつか老いて、周りを照らすように爆発を起こす。

そしてかたちを失って、宇宙空間に飛散していく。

集合と飛散で語られる星の一生。

それはわたしたちの、何かを生むときのエネルギー、精神活動の動きに近しいと思える。

茫漠たる思いを集め、何かを編もうとするのは、

それぞれ永遠に手を延ばそうとする働きなのかもしれない。

神谷美恵子がサン=テグジュペリを引用して書いた一節を、友人が教えてくれた。

なんでもよい、命を捧げるように打ち込んだ仕事をした人は、

死ぬときにその両の手のひら、いっぱいに星が刻まれている、と。

子どものころ、しわしわのおばあちゃんの手が大好きだった。

きょう、命の時間を大切に抱いて、ケアに携わる人の手にも、星がたくさん刻まれていくと思う。

Lucaさんとharuka nakamuraさんの『八星(はちぼし)』という曲がすごい。

I’m not afraid to die.
Because I know you’ll be there.

死ぬことはこわくない。あなたがそこにいると知っているから。

死が別れにならないくらいに、「あなた」がいる、ということの

不思議と広がりをつよく、つよく、この胸に知っていたいと思う。

星を見た日の翌朝、起きてきた娘が

「みんなで星を見るやさしい夢を見たよ」

と教えてくれた。

2022年1月30日