両手いっぱいの星 大山景子
4歳になった娘を寝かしつける日課が楽しい。
わたし「●●ちゃんは春になったら、りすぐみさん(幼稚園の年少さん)からうさぎぐみさん(年中さん)になるでしょ」
むすめ「そのあとどうなるの?」
わたし「ぱんだぐみさん(年長さん)になるでしょ」
むすめ「そのあとは?」
わたし「小学生になるでしょ」
むすめ「そのあと大人になるの?」
わたし「そのあと中学生のおねえさんになって高校生になって、大学生になって……。
赤ちゃんを産んで●●ちゃんがこんどはママになるかもね。●●ちゃんがママになったら、ママはおばあちゃんになるよ」
むすめ「ママはおばあちゃんになったら次なにになるの?」
わたし「うーん、死んじゃうよ」
しまったと思ったがもう遅い。むすめはみるみるうちにおふとんに大粒の涙をおとし、しくしく泣きだした。
むすめ「おばあちゃんの次はなにになるの?」
反省しながら「鳥さんになるよ!」「花になるよ!」と明るくいってみたが、
うそ人間じゃないじゃん、いっしょにいられないじゃん、と泣き止まない。
むすめ「おばあちゃんになったら死んじゃうの?」
わたし「体がなくなっちゃっても、●●ちゃんのそばにずっといるよ。ほんとだよ」
わたしもかなしくなって、祈りのように語気を強めてみたが、
それから、ことあるごとに、娘の「おばあちゃんにならないで」攻撃がすごい。
両手に頬をはさんで口をよぼよぼしわしわさせながら「おばあちゃんにならないよ~」と力なくいっている。
*
週末、美星天文台で星の一生のお話をききながら、夜空の星を見た。
水素ガスがあつまって生まれた星の赤ちゃん。集まって光る若い星の群れ――星のりすぐみさん。
そしてひとり輝いた星は、いつか老いて、周りを照らすように爆発を起こす。
そしてかたちを失って、宇宙空間に飛散していく。
集合と飛散で語られる星の一生。
それはわたしたちの、何かを生むときのエネルギー、精神活動の動きに近しいと思える。
茫漠たる思いを集め、何かを編もうとするのは、
それぞれ永遠に手を延ばそうとする働きなのかもしれない。
*
神谷美恵子がサン=テグジュペリを引用して書いた一節を、友人が教えてくれた。
なんでもよい、命を捧げるように打ち込んだ仕事をした人は、
死ぬときにその両の手のひら、いっぱいに星が刻まれている、と。
子どものころ、しわしわのおばあちゃんの手が大好きだった。
きょう、命の時間を大切に抱いて、ケアに携わる人の手にも、星がたくさん刻まれていくと思う。
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Lucaさんとharuka nakamuraさんの『八星(はちぼし)』という曲がすごい。
I’m not afraid to die.
Because I know you’ll be there.
死ぬことはこわくない。あなたがそこにいると知っているから。
死が別れにならないくらいに、「あなた」がいる、ということの
不思議と広がりをつよく、つよく、この胸に知っていたいと思う。
星を見た日の翌朝、起きてきた娘が
「みんなで星を見るやさしい夢を見たよ」
と教えてくれた。
2022年1月30日