ごあいさつ
大山景子
編集長 Chief editor
1978年生まれ。 慶応義塾大学文学部哲学科倫理学専攻卒業。 多摩美術大学大学院芸術学研究科修士課程修了。 編集者として出版社勤務していた2012年春、大きな交通事故被害にあう。 回復の過程で重度訪問介護の仕事に出会う。
〝いのちに、ふれる〟
土屋パブリッシングは全国で重度訪問介護サービスを提供する株式会社土屋のなかに、日本でも数少ない、電子書籍専門の出版社として誕生しました。
重度訪問介護とは、重度の障害や病を持つ方のパートナーとして、その方らしい生活を共につくっていく仕事です。クライアントのいのちに寄り添い、いのちの声を聴く。
そんなそれぞれの暮らしの場、また臨床の場がわたしたちの舞台です。
ことばを発することが困難な身体、メディアにふれること自体が困難な身体もあります。
そのなかでことばをつむぎ、うけとり、交感するということがどういうことなのか、わたしたちは知ることができました。
土屋パブリッシングのロゴは朝露をモチーフとしました
ヘレンケラーは喜びの隠喩として朝露―“dewdrops”の比喩をたびたび使います。
「幸福を求める人たちがほんの一瞬でも立ち止まって考えてみれば、足元の草々ほどに、花々の上できらめく朝露ほどに、自分が体験できる喜びは無数にあることがわかるはずです。」
夜に結晶した涙のようなしずくが、新しい朝の光を浴びて七色に輝く瞬間。
それは、個の想いが、たくさんの新しい意味を帯びて生まれかわる、
出版の意義―風景といえるかもしれません。
また、朝露は和歌の世界で、はかないもの、いのちにたとえられました。
それぞれの水滴は“わたし”という一瞬の現象の美しさをきらめかせながら、大きな水へと還ってゆきます。
わたしたちは、障害や病の当事者、研究者など、介助の場で生まれた声を採集する「ひかるこえアーカイビング」をたちあげました。
また、「inochi lab.+」という、わたしたちのWell Being(よく生きる)を考えるメディアを発信します。
わたしたちのミッションは「いのちに、ふれる」です。
わたしとあなたのあわいに生まれる―意味よりも早い、あたたかい体温の場にわたしたちはいます。
認知症ケアの技法「ユマニチュード」の、介助の技術に「飛行機が着陸するようにふれる」というものがあります。つかむように、暴力的に介入する介助の仕方を、認知症のお年寄りは怖がります。ゆっくり、着陸するようにふれる、ということ。そこに隠喩的な響きを感じないではいられません。他者にふれるということは、私たちの文明のすべてをもって、注意深く投企されていくような旅なのだと思うのです。
いま、となりあう人に手をのばす。その臨床の仕草からすべてをはじめるべきだ。そんな気がしてなりません。
人文科学、アート、福祉etc.すべての学びを結ぶプラットフォームとして。万学の意味を臨床の、いのちの水際で問い直し、いのちを真ん中に抱いて。わたしたちははじめます。